イメージを与える技術から、イメージを引き出す技術へ。

 

  世間一般に広く受け入れられてきた技術には、その技術が提供する純粋な機能によって与えられる価値に加えて、その技術がユーザに喚起させる想像によって二次的な価値を生ずるものが存在します。例えばソニーのウォークマンは、純粋にはモバイルな音楽鑑賞機能を提供する技術ですが、ウォークマンを買おうとする人は、音楽を聴きながら電車通学したり友人と音楽の貸し借りを楽しんだりする、ウォークマンを持つことで新しく展開し得る新しい自分の生活シーンを想像して、その想像に対して対価を払うと考えられます。私は、このようにそれを使う人の想像を喚起する技術を「芸術的な技術」と呼んで区別しています。一般に芸術と言えば音楽や絵画を指しますが、それらは実際1次元や2次元の信号に過ぎません。しかし、それを鑑賞する人の想像を喚起しますし、また逆に想像を強く喚起する作品はより芸術的であると評価されます。科学技術についても同様のことが言えると考えます。そしてそのような科学技術こそが、人々の楽しく豊かな暮らしに寄与すると考えます。近年、アートやエンターテイメントの名を冠する学術会議が急増しているのも、経済的な安定を背景に、科学技術の「役に立つ」側面に加えて、想像を喚起する「面白い」側面に目を向けようという新たな動きと捉えられます。

 私は、科学技術は芸術的であるのが望ましいと考えます。そして、そのような科学技術を追求する上で重要なのが、一貫したストーリー性と緻密性をもって研究を行うことであると考えます。これらの要因によって、研究のメッセージ性(想像を喚起する力)がより強くなるからです。そのような研究を目指して、合目的的で一貫性のある単純明快なアプローチを緻密に練り上げる努力をしたいと思っています。

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