幸福。

幸福。


どうだろう。この言葉の響き。
白くまばゆいばかりにぼんやりと、純白の花の野に漂う気色。
ここはずっと肉の人間界から離れて、、
と、そんな考えが起こった瞬間さえも、この思いを汚してしまう。

浸っていいのか。
この恍惚感。
恒久と信じていいのか。
この甘美な空気。
疑ってはいけないのか。



僕の業である。

ひどい嵐、吹きつける豪雨に安堵し、
度重なる不幸をもって鎮着たるを得る。
幸福を信じられないのである。


「幸せ」と言いかえてふと安心する。

「志合わせ」と読みかえているのかも知れない。
「し」の語感に、千や万の人の営みを重ね、
終わることのない喜びと悲しみの繰り返しを思う。
そして、自分がその人間界に帰属するをもって、
幸福へたどりつく。

これが僕の幸福である。



人は今日も幸福を求めている。
愛欲や虚栄心に浸りながら。
小さな小さな幸福を集めて、それにしがみつき、
何かが起こるのを頼りにしながら、人生を費している。

人は年を重ねたものを、自分の延長に考えることはできない。
また、幼いものを自分の過去と照らし合わせることもまれである。
人は不幸を背負ったものを自分の延長に考えることはできない。
また、幸福を勝ち得たものに真の喜びを共有しない。

人は学ばず、ただ、先にゆくもの、後からくるものと、
数千年も、ただ毎日毎日、同じことを繰り返してきた。
一刹那にこだわり、美化し、それをただ幸福と呼んでいるのではないだろうか。

それが人類の幸福ではないだろうか。

そして我が肉体も、晴れてその一人を歩んでいるようだ。