<<< 有機EL(OLED)のさらなる応用 >>>


<ひとりごと、その0(まえがき)>
 この「ひとりごと」という表題を見て、EL関係の研究に携わっている方なら、すぐお気づきでしょうが、EL分野で世界的に有名な城戸先生のHPをパクッテいるのか?と思われる方も多いはずです。
特に真似するつもりはありませんが、よく関心して拝見させて頂いているうちに、このページの見出しが、この題目しか思い浮かびませんでした。
私どものOLEDに関する研究は、スペック的には他のOLED研究機関等には足元にも及びませんが、あえてTOLEDに関して少しお話しさせて頂きたいと思います。

もう随分昔の事になりますが、海老名みどりさんが記者に電話をかけまくり「明日重大な発表があるから」と皆を集め、「私はこれから作家になります。」と訳の分からない?記者発表会をしたと、確か記憶しています。
周りにとってはいい迷惑ですが、ご本人の意気込みは、察してあまりあるものがあります。
今までいろいろ試しても出来なかった透明有機EL(TOLED)が研究室の手持ちの装置で出来たことで 私も多分、今(2003.1)そんな状況であるのだと思います。きっと、後になって考えると、言わなきゃよかったって事になるかも知れませんが、ご容赦ください。


また、もうすでにTOLEDは、古くはMg-Ag金属を用いた半透明膜(1998)、フタロシアニン(Pc)を用いた半透明膜(1999)によって始まり、応用物理学会61th秋(2000)ではNi(acac)2を用いた発表があり、その手の機関ではさほど真新しい技術ではないかもしれません。ましてや、最近の応用物理学会(2002春と秋)では、それらを積層させたマルチフォトエミッションデバイスなどの発表もあり、これらを作製できる機関では、もはやTOLEDは、基礎の基礎であると思われます。
しかし、TOLEDは産業的にも技術的にも非常に重要なデバイスであるにもかかわらず、未だに認知度が低いように思われます。そんな理由をこじつけて、TOLEDの応用の展望についてつぶやいてみたいと思います。


<ひとりごと、その1>
 おおよそ、20年前、私は東京のある予備校に1時間かけて通っていました。このころの趣味と言えば、帰りの空いた電車の中(授業が午前中だったのでお昼頃)で、ウォークマン(もどき)から音楽を聴くことでした。当時はウォークマンが売り出されて、数年経過したところで、まだ電車の中でヘッドホンをするのは、それなりに勇気のいることでしたが、外の風景を見ながら好きな音楽を聴ける快適な時間でした。(勉強しろよ・・・(^^; )。
そうなってくると、外の雑音が気になりだし、ひょっとするとヘッドホンをもっと立派なものに代えると、さらに快適になるのではないか?
という誘惑に駆られました。この頃、小さいヘッドホンではなく、立派なやつを頭につけるのはさらに勇気がいる状況だったことを思い出します。しかし、今となってはごく当たり前の風景です。

さて、電車でパーソナルに音楽を聴くことが一般的になると、その次に来るのは、電車で映像をパーソナルに見るということになるでしょう。確かに、飛行機などでは、液晶テレビ等が個々に付いているものも出てきましたが、(満員)電車ではそうはいきません。

 もう、この辺で予想がつくと思いますが、すでに市販されているメガネ(サングラス)式のディスプレイなら人の邪魔にはなりません。しかし、私は電車の中でそれを使っている人を見たことがありません(滅多に電車には乗らないのですが・・・)
それに、あのデバイスを電車の中の多くの人が、使っていると、かなり妙(SFチック)です。

 もし、TOLEDで精細なディスプレイが出来れば、非常に薄いデバイスなので、メガネそのものに付けることも出来るでしょうし、好みの輝度にすれば、半透明な状態で外をうっすらバックに(状況を把握しながら)見ることも出来るのではないか?
と考えています。
電車通勤のお供に ニュース、映画の閲覧のみならず、インターネットでの/情報収集、/お買い物/バンキング や、電車で英会話教室(場面設定を見ながら<--ヒヤリングだけにしてね)なんてものできるかな??
ウェラブルパソコンとかの発想とと類似しますが、妙じゃない(格好が普通と同じ)とこが、普及の要と考えます。
市場調査もぜず、全く勝手なことを言いますが、ウォークマンの次はこれでどう?


<ひとりごと、その2>  
昔、マック68030系、68040系マッキントッシュにアクアゾーンというコンヒ゜ュータ上での水槽内、お魚飼育シミュレーションがありました。これをきっかけに、その後、その他の動物飼育シミュレーションが発展したように思えます。
ある意味スクリーンセーバーの要素とゲームの面白さを兼ね備えた魅力をもっていたように思えます。この枝から、観賞用に特化した、電子水槽(名前を思い出せませんが、CRTをうまく水槽の外装にして、実際に録画した、熱帯魚の動きをCRTに表示するものです。)がたまに、病院や会社の受け付けに置いてありました。
この、装置は知らない人がみると、ほとんど本物に見え、維持する方もメンテナンスフリー、ソフトによって魚や水槽の感じが簡単に変えられるので、ある程度普及したものと思われます。

ここまで読んで頂ければ、予想がつくと思いますが、TOLEDならガラス窓でそれと同じ発想を使うことが出来ます。すなわち、実際のガラス窓の風景に飽きたら、その窓に他の風景が映せるので、かもめが飛ぶ&お魚が跳ねるシーサイドでも、鳥がさえずり、餌をついばむ森林でも、雪がちらつく雪国でも、水中遊覧でも、気分(ソフト)次第で投影可能なはずです。
また、透明なので、ガラス窓にこだわる必要もなく、壁に好きなときだけ、絵や動画を映し出すことができます。
電子水槽の次は、TOLEDガラスで出来た「どこでもドア気分」(仮称)_これでどう?

<ひとりごと、その3>  
私は、画像工学科に身を置いているので、画像に関わる分野が研究のフィールドになります。しかし、画像工学というと、はっきりした領域がわかりずらいためか「画像工学って何を研究するところなの?」と人からよく聞かれます。
定義らしきものにしたがって簡単に考えると、画像工学とは「情報の可視化(またはその逆)に関する工学」ということになります。もっと簡単にいうと、情報を目に見えるものにする(または、目に見えるものを、情報にする)技術に関する工学です。
もっと、もっと簡単に(雑に)いうと、どっかのプロセスで目に見え(る技術を支えている学問であ)れば何でもアリという事でしょうか(^^;

さて、話をTOLED(透明有機EL)に戻しましょう。最初(非発光時に)透明で、発光時のみ表示できるようなデバイスは、「透明なのだから」可視化物体(目に見えるもの)すべてに応用の可能性をもっています。目に見えるものはすべて、TOLEDとの組合せの応用を考えることが出来ることになります。
よってTOLEDの研究領域は画像工学の適用範囲すべてになる?はずです。


<ひとりごと、その4>  
透明有機ELが作製できるということは、そのデバイスを活かした応用が期待でき、それだけでも、すごいことですが、この素子を有機半導体のpn接合素子としてとらえた場合*)、さらにすごいことが考えられます。
今まで、無機半導体のpn接合を基本原理とするデバイスに対して、すべて透明のデバイスに置き換えられる可能性(あくまで可能性です・・・)を示しています。 例えば、
最近、太陽電池にも面白いものが出ていて、シースルーa-Si太陽電池があります。これはガラス窓に半透明の太陽電池を置く発想です。構造はglass/透明電極(TCO)/a-Si(p,i,n)/金属電極です。金属電極に小さな孔を均一に多数あけて、光を透過させているようです。 TOLEDの技術を用いれば、これを有機半導体で実現させることができそう?で、有機太陽電池+透明電極で透明有機太陽電池の作製が期待できます。効率が多少悪くても、家やビルの窓ガラスは日の当たるところに大きく面積を取っていますから設置場所、見栄えも合理的だと思います。

また、耐熱性のプラスチックフィルムにa-Siを形成したフレキシブル太陽電池の開発も行われており、この部分でも、TOLEDの技術で有機フレキシブル太陽電池の作製が期待できます。

といっても有機太陽電池自体の効率は無機のシリコン(単結晶Siで25%、p-Siで20%、a-Si13%程度)に比べ、有機ではトップデータでもまだ数%程度しかありません。しかし、TOLEDの技術を導入することで、有機へテロ接合やドナー・アクセプタ技術の推進が期待でき、さらに最近のフラーレン誘導体(PCBM)等の導入によって、透明有機太陽電池も少しSFの領域から現実に向けて動き出した気がします。

*)有機半導体の場合p形、n形と言うのは厳密ではなく、あくまで電子授与性、電子供与性という方がいいかも知れません。よってエネルギーバンドも明確に形成される訳ではなく、無機半導体でいうところの価電子帯(Valence Band)、伝導帯(Conduction Band)を最高占有分子軌道:HOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)、最低占有分子軌道:LUMO(Lowest Occupied Molecular Orbital)という方がいいでしょう。しかし、大雑把なイメージはVB,CBと同じように考えても、材料選択の指針に矛盾は生じないように(私は)思っています。
<ひとりごと(たわごと)、その5>  
よく思うことで(ポジティブな発想ではありませんが)
太陽電池は、公害0(ゼロ)でクリーンなエネルギーと呼ばれています。
確かに作ってしまえばそうでしょう。でも・・・、Siの単結晶(多結晶/a-Si)を作るのに一体幾らエネルギーを使っているのでしょうか?
絵的にソーラーシステムを導入した家はクリーンです。
しかしこれって、クーラーのがんがん効いた部屋で、原子力反対って言っているのと似ている?ような感じもします**)
太陽電池パネル完成後の積算電力から比して考えれば、作製時にかかった電力なんてネグれますかね・・・。

という観点からも、有機で簡単なプロセス(省エネルギーの製造過程)で出来ないかなぁ・・・。

**)上記の技術に携わっておられる方もたくさんおいでかと思います。ただ宣伝のロジックの矛盾を指摘したかっただけなのです。敵意はありません。ごめんなさい。
<ひとりごと(たわごと)、その6>  
わたしの、くだらない一人ごとをここまで読みつづけていただいた方、どうも有難うございます。
何か「ひとりごと」ということで勝手なことを書かせていただきました。
勝手ついでにもう一つだけ

私は[実力もないのに、なぜか]大勢になびくのが苦手です。みんなが右に行くと理由もなく左に行くようなところがあります。
どんな研究でもそうですが、お金がかかります。それでかどうか知りませんが、立派(高額)な装置を使うと立派な研究をしているように、見られます。(確かに、優れた技術のあるところだから、資金(研究費)が集まるのですが...。)
逆にいうと、そこいらに転がっている装置では、ロクなものは出来ないという先入観にとらわれがちです。、

TOLEDに話をもどしましょう。ご存知のように有機EL(OLED)は、残留の水分や酸素にとても敏感なため、素子の製造のプロセスで一度でも大気中に曝されると著しい特性の劣化と寿命の低減が起こるとされています。
これを避けるためには、各プロセス(成膜の一つ一つのプロセス)で別の真空槽が必要となるため、真空槽をいくつも繋げた立派な製造装置が必要となります。
 当研究室では、通常の成膜装置しかないために、1工程づつ大気に暴露されています。ですので、当研究室でもなんとか手に入れたい装置です。
しかし、素子の製造のプロセスで一度でも大気中に曝されることなく、封止まで完了させるには、立派な装置で作るしかないのでしょうか?
どうもそれは、大手の大企業のロジックに思えてなりません。
町工場(の_おっちゃん)の優れた知恵を集めば、とても安く装置が出来るのではないか?と思っています。
要は不活性ガス中または、真空中で[スピンコート、乾燥、蒸着、スパッタなどのプロセスの後、素子が封止]出来、「そこそこの性能(輝度、寿命がで)」ればいいのです。

どなたか、お知恵をおもちの方、

是非、連絡頂けると幸いです。



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